2026年国会質疑でわかる国と省庁の化学物質過敏症への認識

いま日本では、化学物質過敏症の人が100万人いるとも言われています。この人数は後にあげる京都大学名誉教授の内山教授が示していますが、これに加えて、化学物質で体調が悪くなる人は1,000万人に達するとも、化学物質過敏症の専門医である京橋クリニックの山崎医師は述べています。
13人に1人が苦しんでいる化学物質過敏症。洗剤や柔軟剤の「香り」が体調不良の原因に!?(山崎明男先生 / 京橋クリニック 院長)
決して無視できない数の人が苦しんでいるなか、国を動かしている国会と省庁は化学物質過敏症をどう考えているのでしょう。
2026年5月15日に衆議院環境委員会が行われ、庄子賢一衆議院議員が化学物質過敏症に関して質疑しました。相手は石原環境大臣をはじめ厚生労働省、内閣府、国土交通省、文部科学省そして消費者庁の官僚です。彼らの答弁を聞いていると、現在国が化学物質過敏症をどのように捉えているか、その一端を知ることができます。
その質疑の模様は、YouTube動画の庄子賢一議員チャンネルにアップロードされています。
ここからは、庄子議員の質疑とその答弁を要約し文字化してお伝えします。
※庄子議員に断りを申し入れた訳ではなく、YouTubeにアップロードされて誰でも視聴できることから、ここで紹介させていただきました。もし問題がありましたら、お知らせください。
庄子議員の冒頭の言葉
議員は、化学物質過敏症は身の回りの様々な化学物質に反応して発症する「現代の環境病」と認識できるのでは?という問いかけからはじめます。
その理由として、京都大学の内山教授らが成人を対象に行った過去の調査をあげています。全国での化学物質過敏症の当事者数はおよそ70万人と推計され、子どもを含めれば100万人規模に上るとも言われているという調査結果です。
※調査名は言及されていません。しかし厚生労働科学研究成果データベースに、内山教授の研究が掲載されています。
研究課題名「シックハウス症候群の発生予防・症状軽減のための室内環境の実態調査と改善対策に関する研究」に含まれている、内山巌雄教授と東賢一講師による「化学物質に高感受性を示す人の分布の経年変化の評価」です。(紙面のページでは24ページから)
庄子議員は、最大の問題はなぜ化学物質との接触で様々な症状がでるのか、その因果関係が未解明なことだと言います。
また、明確な診断基準や治療方法が確立されていないために、医療現場などが適切な支援や救済になっていないことも指摘しています。
石原環境大臣への質疑と答弁
庄子議員は石原環境大臣へは、環境基本法での公害認定について質疑します。
環境基本法第2条3項では、事業活動等に伴って生じる7大公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)により健康被害が生じることを公害と定義していると指摘します。
この定義をふまえると、事業活動に伴う揮発性有機化合物(VOC)、防蟻剤、農薬等の大気中への放出によって化学物質過敏症などの健康被害が生じた場合、これを公害として取り扱うことを検討すべきではないかと問いかけます。
石原環境大臣の答弁の要約は、次のようです。
石原環境大臣の答弁
- 化学物質過敏症は現時点で病態に未解明な部分が多く、まだ研究が続けられている段階
- 原因物質が特定されておらず、症状との因果関係が解明されていないことに加え、明快な診断基準等も定まっていない
- 相当範囲にわたる大気の汚染が明らかになっているという認識はない
- 規制の対策を講じる程度に環境の劣化が生じている状況とは言いがたく、環境基本法上の公害には当たらないと考えている
このように述べて、まずは引き続き化学物質過敏症の研究調査の推進や、科学的知見の充実を図ることが重要という答弁でした。
厚生労働省への質疑と答弁
次に厚生労働省への質疑です。
化学物質過敏症は発症の仕組みや因果関係、診断治療の方法が確立していないため、適切な支援策がないことが最も大きな問題だと庄子議員は指摘します。
厚生労働省の難治性疾患政策研究事業などにより、患者会メンバーが化学物質に強く反応することや、脳や神経が過剰に興奮する中枢神経感作との関連が明確に示されていると理解していると言います。
そんななか、今後に残されている研究領域・課題は何なのか。また、何を解明できれば化学物質過敏症の診断方法や治療法の確立に繋がると考えているかを問いかけました。
これに対する厚生労働省の答弁の要約です。
厚生労働省の答弁
- 厚生労働科学研究で、化学物質過敏症の患者の中に中枢神経が過剰に興奮する中枢神経感作が多く認められた
- しかし、その因果関係は依然として不明
- 病態が未解明であるため、現時点では客観的な診断基準や治療法の確立には至っていない
引き続き中枢神経感作との関連も含めた研究を推進し、科学的な知見の収集に努めるとのことです。
庄子議員はさらに、全国に多数存在する化学物質過敏症の当事者やその予備軍が、安心して相談できる専門医療機関の設置や専門医ドクターの育成が急務と考えるが、どのような対策を講じていくかという再質疑には、上述の答弁を繰り返しました。
内閣府への質疑と答弁
続く内閣府への質疑では、障害者差別解消法にもとづく合理的配慮の提供について聞いています。
化学物質過敏症の患者の中には、障害年金の対象に認定されたり、障害者差別解消法での障害者に該当する場合があると。
また2024年(令和6年)4月に施行された改正障害者差別解消法により、事業者による障害者への合理的配慮の提供が法的義務化されたことを取り上げられました。
庄子議員は、化学物質過敏症で苦しんでいる者も、当然この合理的配慮の対象になり得ると考えられるとの見解を述べます。現在、化学物質過敏症の患者への合理的配慮の提供が適切になされているか、この点をどう認識しているのかを尋ねます。
内閣府の答弁、気になるところです。
内閣府の答弁
- 化学物質過敏症で心身の機能に障害が生じて継続的に日常社会生活に相当な制限を受ける状態と認められる場合は、障害者差別解消法の定義にもとづいて、障害者になると考える
- 各省庁や地方公共団体から障害者差別解消法に関する事例を収集し、事例データベースとしてウェブサイトで公表している中に、化学物質過敏症も掲載している
以上をふまえて、障害者差別解消法について広く周知し、正しい理解を促していくことが重要なので、今後も引き続けて周知・啓発していきたいということです。
内閣府の答弁にある障害者差別解消法に関する事例を集めたデータベースとは、相談窓口に寄せられた事例を障害別に検索して表示できるページのことです。
このウェブサイトは正直に言って使いやすくはありません。簡単に化学物質過敏症の事例を表示させる方法は次の操作です。
内閣府の障害者差別解消に関する事例データベースの使い方
事例データベースのページには、化学物質過敏症という文字は表れていません。そこで二つのステップを踏んで、化学物質過敏症の事例を表示させる必要があります。ステップ1とステップ2で次の操作をします。
- ステップ1:「合理的配慮の提供事例」のチェックボックスを選ぶ
- ステップ2:一番下の「キーワードから探す」に「化学物質過敏症」と入力
ステップ2には様々な項目がありますが、記入する必要はありません。最後に、検索ボタンを押します。

このように一手間かけなくてはいけませんが、化学物質過敏症の事例を読むことができます。
また、それらを元にして、地元の市役所や福祉関係の組織に相談を持ちかけることもできます。実際に自分でも相談しましたが、市役所の市民対応マニュアルに事例と同じ対応が付け加えられました。相談を受ける側も、国の姿勢を伝えれば、対応しやすくなるのかもしれません。
化学物質過敏症で悩んでいるなら、下記「内閣府ホームページ」のリンクは得るところが多いことでしょう。
障害者差別解消に関する事例データベース
国土交通省への質疑と答弁
国土交通省には、安全な住居確保のための情報提供と相談体制の整備について質疑しています。
建物の内装材や接着剤、断熱材などの揮発性有機化合物(VOC)による化学物質過敏症の症状がでないよう、無添加住宅の物件情報を充実させるべきではないかと。
そのために不動産業者と自治体と医療機関が連携して、情報を提供する体制の整備、ポータルサイトの開設、住まいの専門相談窓口の設置を検討してはとも提案します。
これに対して国土交通省はこれまでの取り組みの成果を述べるに留まります。しかし庄子議員は答えになっていないと反論し、低所得のために住まい探しに困っている人という定義に化学物質過敏症の人は含まれるかという、より精度を高めて問いかけました。
国土交通省はこう答弁しています。
国土交通省の答弁
- 化学物質過敏症は原因の特定が難しいという面はあるが、例えば低額所得など、いわゆる住宅確保要配慮者に該当する場合は、当然、居住支援の対象になると考える
文部科学省への質疑と答弁
文部科学省へは、学校設置者が化学物質による体調不良から生徒の健康を守るべきだと指摘します。
文部科学省の答弁
- 学校保健安全法にもとづいて、学校の設置者は児童生徒と職員の心身の健康の保持増進を図るため、施設・設備や管理運営体制の整備など、必要な措置を講じるよう努めること
- 化学物質過敏症は症状が多様で個人差があり、学校生活に支障をきたすこともあると認識している
- 養護教諭、教職員、学校医、保護者、学校設置者といった関係者が連携して、各学校で個々の実情に応じた個別の配慮を行うよう、都道府県教育委員会等を通じて求めている
庄子議員はここで、東日本大震災の津波で多くの児童らが犠牲になった大川小学校の最高裁判決を取り上げました。
当時、市が作ったハザードマップでは大川小学校は浸水区域外であったが、学校はその立地の危険性を考慮して独自の緊急マニュアルを作るべきで、学校管理での児童生徒の健康や命を守る責任は極めて重いと司法は判断したと言うのです。
これをふまえて庄子議員は、文科省が述べた個別の配慮が、全国の各学校の現場で本当に適切に対応できているか、国としてしっかりと状況把握を行うべきではないかと言います。
また、2025年11月に北海道の厚岸町教育委員会が公表した報告書「香りへの配慮(香害)および化学物質過敏症に関する実態調査」を取り上げました。
この報告書では、学校内で柔軟剤や香水の香りで体調不要になった経験が、子どもでも大人でも一定の割合で存在すると実証されたのです。
この様な調査を全国的に行うことを考えてはどうかと庄子議員は質問しましたが、その予定はないというのが文部科学省の回答です。
その代わりに、学校には個々の症状に応じた適切な個別の配慮を求めるとともに、香りへの配慮に関する啓発ポスターや化学物質に関する教師用の資料を活用するなどで周知につとめると答えます。
消費者庁への質疑と答弁
文部科学省が発言した答弁の流れをうけて、庄子議員の質疑は消費者庁へと移ります。
それは、化学物質過敏症に苦しんでいる者から切実な声が上がっているのに、国の対応は啓発ポスターの配布や限られた広報活動だけ。一般的な商品に含まれている化学物質で症状がでている者は、実際のところ、それら化学物質への対策が進まない現状に絶望している。
2019年から香りの害(香害)については省庁横断の担当者会議が設置されているが、これを香害を含む化学物質過敏症の全体の関係省庁連絡会議へと発展格上げさせるべきではないかと提案します。
消費者庁の答弁
- 消費生活相談や消費者団体との意見交換などで、柔軟仕上げ剤の香料で化学物質過敏症の症状を訴えている人がいることは十分に承知している
- 関係省庁がそれぞれの管轄にもとづいて、可能な対応を進めている
消費者庁としては、関係省庁と緊密に連携して最新の科学的知見の情報共有を行いながら、引き続き周知・啓発に取り組んでいきたいということです。
これはそのまま、庄子議員が主張している連絡会議そのものに聞こえますが、省庁の認識はそこまでに至っているのでしょうか。
再び、環境大臣へ質疑
庄子議員は再度、石原環境大臣に質疑します。
各省庁の「原因や症状発生のメカニズムがはっきりしていないから、やれることには限りがある」という答弁をうけて、原因の究明を待つのではなく、同時並行で、国として今やれることは何かないかを検討すべきではと問いかけます。
それが関係省庁の担当者会議を格上げした、化学物質過敏症全体の連絡会議のようなものだと。
石原環境大臣の答弁
大臣は次のように答えています。
- 人体や環境に影響が懸念される問題については、科学的に不確実であることを理由に対策を遅らせてよいとは考えていない
- 科学的知見の充実に努めながらも、それと並行して、予防的な対策を講じていく必要があると考える
- 科学的知見の充実の状況を踏まえつつ、具体的な対策をさらに検討していく
質疑と答弁を聞いて
庄子議員の質疑にたいする環境大臣や各省庁の答弁から、国は化学物質過敏症という症状があることは分かっています。しかし原因が判明していない以上、対策の打ちようがないと言うのが現状のようです。
各答弁の言葉のなかで、物質などに「等(とう)」という言葉を付け加えているのが耳に気になりましたが、言明を避けているのでしょうか。
各省庁の答弁のなかで、内閣府は「化学物質過敏症は障害者差別解消法の定義にもとづいて、障害者になると考える」と言っています。また国土交通省は「低額所得など、いわゆる住宅確保要配慮者に該当する場合は、当然、居住支援の対象になると考える」とも。
これらはすでに過去の答弁にでてきた言葉かもしれませんが、今回まとめて引き出せたことは収穫のように思えます。庄子議員の周到に考え抜かれた質疑の流れの賜物と言えるのではないでしょうか。
議員が問い、石原環境大臣も答えたように、原因が分かっていないから何も対策をしないでいては、いま以上に香害の被害者を増やすだけです。国には早急の香害対策をお願いしたいものですね。
ちなみに庄子議員の質疑は、下記の衆議院インターネット審議中継ビデオライブラリと、YouTube動画の庄子賢一チャンネルで視聴できます。
また衆議院環境委員会ニュースでは質疑の会議録を読むことができます。
庄子議員は自身のウェブサイトで、質疑をふまえてこう書いています。
結果が出るまで何もできない、しないというのは間違った姿勢であり、相談体制の整備や学校での「香害」教育。省庁横断の対策会議の設置等やれることはあるはず。
今後も進行管理していく考えです。
ぜひ引き続き、化学物質過敏症について国会での活動をお願いしたいものです。期待しています。
また化学物質過敏症の問題に取り組まれている国会議員は、庄子議員のほかにもいらっしゃいます。県議会議員や市議会議員のなかにも、SNSなどで化学物質過敏症に関する報告をしている方々もいます。
このサイトでも、化学物質過敏症の海外の情報とともに、身近なところで行われているこのような活動を掲載していきます。

