映画:鑑賞録(2022年5月後半)

月ごとに観た映画の鑑賞録です。15日で前半と後半に分けています。
映画館、DVD、ネット配信のGYAOと、すべて混こぜです。
観る映画は監督で決めます。

評価は四段階で、

今回は2022年5月後半の観賞録です。

2022年5月後半の映画鑑賞録

タイトル監督評価鑑賞日
パリの恋人たちルイ・ガレル2022/05/31
秘本 袖と袖加藤彰2022/05/28
HANA-BI北野武2022/05/20
ハンナ・アーレントマルガレーテ・フォン・トロッタ2022/05/20
オーディション三池崇史×2022/05/18
チンピラ ~TWO PUNKS~青山真治2022/05/17
閉鎖病棟―それぞれの朝―平山秀幸2022/05/17

”楽しい”以外の気持ちを”面白さ”に見いだせる映画

この2週間は日本映画の旧作を鑑賞することが多かった。それも大手配給会社系の作品ではなく、限られた予算ながらも監督の特色が色濃くでているミニシアター系だ。

日頃一般的な大作映画にしか関心がない人々は、独立系の映画というのは、どこか監督が勝手気ままにつくったというような印象を持ってしまいがちだ。だがそれは思い込みでしかない。

鑑賞中に自分を笑わせたり楽しませたり、そういう感覚にさせて日ごろを忘れさせる映画にたいして”面白い”という言葉を使っているだけだ。ここには新しいものを味わおうという意図は全くない。

芸術とは自分とは違う”何か”を体験させるものだ。
それに接したとき、楽しさもあろうが、ときに怖さ、気味悪ささえ抱くこともある。それも含めて、自分がこれまでとは違う感覚を持っているそのことを”面白い”と捉えられるかどうかが。
ここに芸術を堪能する差が生まれる。

映画においても同じことだ。
自分と違うからという理由で監督の個性が出た作品を避け、メジャー系の作品ばかりを観ていたのでは、本当の鑑賞とは言えない。そんな大衆受け作品をどれだけ見たところで、経験の蓄積にはなろうはずがない。

お勧め映画

『チンピラ』

青山監督の創作の意図と、それを演技として見える形にした役者のコンビネーションが全編にわたって繰り広げられていて、作品の規模の大小に関係なく面白い仕上がりになっている作品。

特に、大沢たかおというメジャー映画でも主役を担える実力と容姿をそなえている役者が、まだキャリアの初期であるからなのか、新鮮な柑橘系の香りの空気感を漂わせている。その姿を見るだけで、こちらまで爽やかな気持ちになってくる。

『HANA-BI』

この作品ほど、北野武監督が映画の歴史を築いてきた名作を意識した作品はない。

まだ映画の表現手段に慣れていないことが衝撃だったデビュー作『その男共謀につき』や『3/4 ×10月』、起承転結という物語を意識しはじめた『あの夏、いちばん静かな海』を経て、監督としてのキャリを積むと同時に、過去の名作にも触れ始めたのだろう。
各シーンに、編集に、設定場所と色彩の設定に、登場人物に、映画の系譜を読み取れることだろう。

その経験が衝撃とメロドラマの合奏のように『HANA‐BI』において結実した。世界的にもその実力が認知された。新しさと独自さを重視するベニス映画祭で金獅子賞を獲得できたのも当然と言える。

アイデアとショッキングさに目が奪われがちな北野武監督作だが、周囲を固めるスタッフは実に古典とも言えるほど手堅い仕事をされている。
とくに今作では、主人公二人の心情を代弁している小道具や服装が際立っている。

『閉鎖病棟』

大手の映画配給会社系も今ではアニメにばかり力を入れているが、かつては地味ながらも心に訴えてくる映画を製作していた。それらの作品は、助監督からキャリアをはじめた現場叩き上げの人が監督を担当することが多い。平山秀幸監督もその一人である。

笑福亭鶴瓶という落語家であり役者であるメジャー寄りの芸達者を、一般には測り知ることのできない精神疾患の病院の住人にあてがい、人間の弱さ強さを控えめに表現させている。

かつて「スジナシ」というテレビ番組で、即興演技を存分に堪能した鶴瓶氏だけに、どんな役柄でもこなしてしまう恐ろしさがある。しかも芸人鶴瓶が消えて。
この作品でも、含み笑いやため息まじりに語るところなど、重くなりすぎない諦め感が、その容貌に相応しく描写されている。

平山監督のように、実力があって毎年のように映画を送りだせる監督がいるにも関わらず、それが実現できていないのは、時代と言えばそれまでだが寂しい限りだ。
もはや製作陣は、かつての黄金時代のような映画への関わり方を頭から捨てることから、再スタートする時に来たのではないだろうか。