月ごとに観た映画の鑑賞録です。15日で前半と後半に分けています。
映画館、DVD、ネット配信のGYAOと、すべて混こぜです。
観る映画は監督で決めます。
評価は四段階で、
◎:愛した映画。絶対に映画館で観たいし、ネットでの再配信は必ず観る 〇:機会があれば映画館でみたい。ネットの再配信があれば優先して観る △:あまり面白味を感じなかった。積極的には次回は観ようとはしないか ✕ :もう観返さない目印。しかし監督には関心があるから、今後、評価が変化するかも
今回は2022年3月後半です。
2022年3月後半の映画鑑賞録
題名 | 監督 | 評価 | 媒体 | 観た日 |
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荒野のストレンジャー | クリント・イーストウッド | ◎ | DVD | 2022/03/31 |
座頭市血煙り街道 | 三隅研次 | ○ | GYAO | 2022/03/31 |
ピアノ・レッスン | ジェーン・カンビオン | ◎ | GYAO | 2022/03/31 |
フェリーニのアマルコルド | フェデリコ・フェリーニ | ◎ | GYAO | 2022/03/30 |
美しき諍い女 | ジャック・リヴェット | ◎ | GYAO | 2022/03/30 |
父親たちの星条旗 | クリント・イーストウッド | ◎ | GYAO | 2022/03/28 |
あん | 河瀨直美 | ◎ | DVD | 2022/03/28 |
ゼイリブ | ジョン・カーペンター | ○ | GYAO | 2022/03/27 |
悪魔のいけにえ | トビー・フーパー | ○ | GYAO | 2022/03/26 |
THE BATMAN-ザ・バットマン- | マット・リーヴス | ○ | 映画館 | 2022/03/26 |
硫黄島からの手紙 | クリント・イーストウッド | ◎ | GYAO | 2022/03/25 |
サスペリアPART2 | ダリオ・アルジェント | ○ | GYAO | 2022/03/23 |
台風クラブ | 相米慎二 | ◎ | GYAO | 2022/03/22 |
大地の子守歌 | 増村保造 | ○ | GYAO | 2022/03/22 |
パワー・オブ・ザ・ドッグ | ジェーン・カンピオン | △ | 映画館 | 2022/03/21 |
卍 | 増村保造 | ◎ | GYAO | 2022/03/20 |
インビジブル | ポール・バーホーベン | ◎ | GYAO | 2022/03/19 |
ゲティ家の身代金 | リドリー・スコット | ○ | GYAO | 2022/03/18 |
CURE | 黒沢清 | ◎ | GYAO | 2022/03/17 |
ドライブ・マイ・カー | 濱口竜介 | ◎ | 映画館 | 2022/03/17 |
蘇える金狼 | 村川透 | × | GYAO | 2022/03/16 |
黒いドレスの女 | 崔洋一 | × | GYAO | 2022/03/16 |
ふるさと | 神山征二郎 | ◎ | GYAO | 2022/03/16 |
見逃した作品、堪能した作品
3月末は配信される映画が多数あり、そのどれもが名作ばかりとあって、見られなかった作品がいくつもあった。
例えば、キューブリックの『2001年宇宙への旅』、フェリーニの『8 1/2』と『道』など。どうしてこうも重ねて配信してくれるのかと、嬉しい文句の一つも言いたくなるくらいだった。
映画館で観た『THE BATMAN』は、画面も物語も陰のような暗さを感じさせた。クリストファー・ノーラン作のバットマンが陽だったのと対照的だと言えるだろう。
主人公の雰囲気はどこかカート・コバーンで、ここぞというシーンにはニルヴァーナを流したりと、監督の意図なのだろう。
思いのほか良かったのが、『あん』。この作品での樹木希林は、是枝監督作で見せる生きる強さが消えて、その弱さは人物がそこに薄くなって居る、ある種日本美の極地に達しているように思えた。
河瀬監督の映像には、その根本に男に対する女という性があるようで、こんなところはジェーン・カンピオンと似ているものを感じる。
ジャック・リヴェットの『美しき諍い女』はいつ観ても素晴らしい。開始の20分間の展開は、映画の歴史と文法を凝縮した、まさに教科書である。
デッサンを始める前に主人公の画家が、絵を描く場所をつくるためにあれこれと試行錯誤している姿は、まさに芸術家そのもの。
その他、個人的に好きなポール・バーホーベン、クリント・イーストウッド、黒沢清、神山征二郎監督作が観られて至福の時を過ごせた。
お勧め映画
『美しき諍い女』
ヌーヴェルヴァーグというと、ごく一部のシネフィルしか興味がなくミニシアターで上映されがち。だが、この作品は大きめの映画館で観た記憶がある。
リベット作品の中でも、一般受けがされやすい一作と言えるだろう。
かつてフランス人の映画学の教授が、『美しき諍い女』には映画の全てが凝縮されていると語っていたが、まさにその通りだと思う。特にオープニングの物語の開始、カメラワーク、人物配置と台詞、音声、編集は、映画の教科書だ。
映画を表現手段として捉える者にとっては、学べることが多いはずだ。絶対に外せない一本である。
『インビジルル』
透明人間を題材とした映画は何本もあり、その主人公には、ある一つの性格づけが色濃くされていることが多い。
ポール・バーホーベンが監督した今作では、自己顕示や名誉といった側面が、見えない姿とは裏腹に強調されている。その欲望は、先駆者であることが美徳という、まさにアメリカ的だ。
とは言え、監督はかつて『ロボコップ』というヒット作をも手掛けたオランダ人だ。
バーホーベン作品には、ロボット警察や透明人間といった、アクションと娯楽がコンセプトになっていることが多い。
だがその奥には、ヨーロッパの知識階級が怜悧な明晰さで語る、倫理と哲学がある。監督の深い教養が、今作を記憶に残すべき一作に成し得ていると言えるだろう。
マーケティングに物を言わせるSFXだけの娯楽作とは、決定的に違う。必見。
『ふるさと』
ダムに沈むことが決まった村の、ひと夏を綴った物語。
山奥の木漏れ日、反射する川の水の流れ、そんな人の手に汚されていない空気感が美しい。
その美しさが、時代の流れとはいえ、文明に壊されていく。
生まれ育った土地を離れなければならない村民の諦めと悲しさにも、ひとときに輝く美しさがある。
痴ほうが出はじめた老人を演じた加藤 嘉(かとう よし)氏は、モスクワ映画祭で主演男優賞を獲得したが、本当の痴ほう症老人だと勘違いされたと言う。
悲しい現実ばかりに思えるが、隣の住人役で登場している樹木希林が笑いをスパイスとして作品に味付けている。
坂道を転げ落ちそうになる一輪車を、足を踏ん張って留めようとするファーストショットは、彼女だからこそ思わず笑ってしまう。
数えるほどしか写されない樹木希林を、この演技で登場させることにした神山征二郎監督の演出プランには脱帽するしかない。